目次
はじめに
本シリーズは、生徒役のシグマと教師役のオメガの2人の会話で学ぶ高校数学です。
皆さんも、シグマと一緒に高校数学を学んでみませんか?
展開の工夫
オメガ「今日も、式の展開(整式の乗法)の続きだよ。今日は展開の工夫について学ぼう」
シグマ「どんどんぱふぱふ」
オメガ「今日ははじめに扱う問題を載せておくね」
(1) \((a+b+c)(a+b-c)\)
(2) \((a+b-c)(a-b-c)\)
(3) \((a+b+c)(a-b-c)\)
(4) \(a(a+1)(a+2)(a+3)\)
(5) \((a^4+1)(a^2+1)(a+1)(a-1)\)
(6) \((a+b)(a-b)(a^2+ab+b^2)(a^2-ab+b^2)\)
(7) \((a+b)^3(a-b)^3\)
シグマ「どの問題も根性で何とか展開できそう」
オメガ「どんな方法でも、まずは解けることが第一だから、良いことだと思うよ。けど、今回は根性ではなく工夫して解くことを考えようか」
シグマ「はーい」
\((a+b+c)(a+b-c)\)
オメガ「この式を見て感じることはあるかな」
シグマ「\(a+b+c\) と \(a+b-c\) は似ているね。最後の項のプラスマイナスが違うだけ」
オメガ「そうだね。\(a+b\) の部分は共通しているから、この部分を別の文字で置き換えてみよう」
\((a+b+c)(a+b-c)\)
\(=(A+c)(A-c)\) \(A=a+b\) とおく。
\(=A^2-c^2\)
\(=(a+b)^2-c^2\)
\(=a^2+2ab+b^2-c^2\)
シグマ「なるほど。計算が簡単になってる! 共通する部分は別の文字で置き換える、と」
オメガ「慣れてくるとね、別の文字で置き換えなくても同じことができるようになるよ。\(a+b\) を1つのブロックとして考えてみて」
\((a+b+c)(a+b-c)\)
\(=(a+b)^2-c^2\)
\(=a^2+2ab+b^2-c^2\)
シグマ「おおーー?」
オメガ「慣れるまではいったん別の文字に置き換えて考えてもいいよ。でもいずれは省略できるといいね」
\((a+b-c)(a-b-c)\)
シグマ「この問題も共通する部分がある! 解いてみるよ」
シグマの解答(※誤答)
\((a+b-c)(a-b-c)\)
\(=(a+A)(a-A)\) \(A=b-c\) とおく。
\(=a^2-A^2\)
\(=a^2-(b-c)^2\)
\(=a^2-(b^2-2bc+c^2)\)
\(=a^2-b^2+2bc-c^2\)
シグマ「どう?」
オメガ「気持ちは分かるけど、不正解だね」
シグマ「うそだ〜」
オメガ「うそだと思うなら、普通に展開してみて」
普通に展開
\((a+b-c)(a-b-c)\)
\(=a^2-ab-ac+ab-b^2-bc-ac+bc+c^2\)
\(=a^2-2ac-b^2+c^2\)
シグマ「ほんとだ。違う……」
オメガ「置き換えの部分が間違っているんだよね。 \(a-A\) を置き換える前に戻してみて?」
シグマ「\(a-b-c\) でしょ?」
オメガ「違うよ。よく考えてみて」
シグマ「……! そっか」
\(a-A\)
=\(a-(b-c)\)
=\(a-b+c\)
\(a-A\) と \(a-b-c\) は別物!
シグマ「\(a-b-c\) の \(b-c\) 部分だけを文字で置き換えることはできないんだね」
オメガ「そうだね。ならどうやって解こうか?」
シグマ「\(a-c\) を文字で置き換える」
シグマの解答(※正答)
\((a+b-c)(a-b-c)\)
\(=(A+b)(A-b)\) \(A=a-c\) とおく。
\(=A^2-b^2\)
\(=(a-c)^2-b^2\)
\(=a^2-2ac+c^2-b^2\)
オメガ「これで正解だね。文字で置き換えずに、ブロックで考える場合の計算式も書いておくよ」
\((a+b-c)(a-b-c)\)
\(=(a-c)^2-b^2\)
\(=a^2-2ac+c^2-b^2\)
\((a+b+c)(a-b-c)\)
オメガ「一見、共通する部分がなさそうに見えるけど、どうかな?」
シグマ「これは分かったよ!」
シグマの解答
\((a+b+c)(a-b-c)\)
\(=(a+b+c)\{a-(b+c)\}\)
\(=(a+A)(a-A)\) \(A=b+c\) とおく。
\(=a^2-A^2\)
\(=a^2-(b+c)^2\)
\(=a^2-b^2-2bc-c^2\)
オメガ「正解ー。この問題も、ブロックで考える場合の計算式を載せておくね」
\((a+b+c)(a-b-c)\)
\(=(a+b+c)\{a-(b+c)\}\)
\(=a^2-(b+c)^2\)
\(=a^2-b^2-2bc-c^2\)
\(a(a+1)(a+2)(a+3)\)
オメガ「この問題はどうだろう?」
シグマ「工夫の仕方がわからないや。とりあえず普通に計算してみるね」
シグマの解答
\(a(a+1)(a+2)(a+3)\)
=\((a^2+a)(a^2+5a+6)\)
=\(a^4+5a^3+6a^2+a^3+5a^2+6a\)
=\(a^4+6a^3+11a^2+6a\)
オメガ「前から一つずつ展開をしていくのではなくて、前二つと、後ろ二つを先に展開したんだね。それだって立派な工夫だよ」
シグマ「工夫できてたんだ」
オメガ「でももっと工夫できるよ」
工夫した解答
\(a(a+1)(a+2)(a+3)\)
=\(a(a+3)(a+1)(a+2)\)
=\((a^2+3a)(a^2+3a+2)\)
=\(A(A+2)\) \(A=a^2+3a\) とおく。
=\(A^2+2A\)
=\((a^2+3a)^2+2(a^2+3a)\)
=\(a^4+6a^3+9a^2+2a^2+6a\)
=\(a^4+6a^3+11a^2+6a\)
オメガ「順番を並び替えて、2つずつ展開することで、共通部分をうまく作り出したんだ」
シグマ「なるほど。 \(a^2+3a\) という共通部分がうまく現れるように、ペアを作ったんだね。元々より、計算式が長くなっている気もするけど」
オメガ「まあ確かにね。でもこの方法も覚えておいてね」
ブロックで考える場合の解答
\(a(a+1)(a+2)(a+3)\)
=\(a(a+3)(a+1)(a+2)\)
=\((a^2+3a)(a^2+3a+2)\)
=\((a^2+3a)^2+2(a^2+3a)\)
=\(a^4+6a^3+9a^2+2a^2+6a\)
=\(a^4+6a^3+11a^2+6a\)
\((a^4+1)(a^2+1)(a+1)(a-1)\)
オメガ「この問題はどうかな?」
シグマ「ふむふむ。これは前から展開していくと痛い目に会うやつだな」
シグマの解答
\((a^4+1)(a^2+1)(a+1)(a-1)\)
=\((a^4+1)(a^2+1)(a^2-1)\)
=\((a^4+1)(a^4-1)\)
=\(a^8-1\)
オメガ「正解〜。いいね!」
シグマ「これもさっきの問題と同じで、計算順を工夫する問題だね」
オメガ「その通りだよ」
\((a+b)(a-b)(a^2+ab+b^2)(a^2-ab+b^2)\)
オメガ「この問題はどうかな?」
シグマ「うーん……。とりあえず前2つで和と差の積だよね」
シグマの解答(※誤答)
\((a+b)(a-b)(a^2+ab+b^2)(a^2-ab+b^2)\)
=\((a^2-b^2)(a^2+ab+b^2)(a^2-ab+b^2)\)
シグマ「ここで手詰まりだ……」
オメガ「確かに和と差の積の公式に飛びつきたくなっちゃうけど、これも計算順を工夫する問題だよ」
シグマ「計算順……。そうか、あの公式が使える!」
シグマの解答(※正答)
\((a+b)(a-b)(a^2+ab+b^2)(a^2-ab+b^2)\)
=\((a+b)(a^2-ab+b^2)(a-b)(a^2+ab+b^2)\)
=\((a^3+b^3)(a^3-b^3)\)
=\(a^6-b^6\)
オメガ「この問題も無事解けたね」
\((a+b)^3(a-b)^3\)
シグマ「最後の問題だー! 絶対に解いてやるぞ」
時間がかかったものの、これまで学んだことを組み合わせて、シグマは自力で解答を作り出した。
シグマの解答
\((a+b)^3(a-b)^3\)
=\((a^3+3a^2b+3ab^2+b^3)(a^3-3a^2b+3ab^2-b^3)\)
=\((a^3+3ab^2+3a^2b+b^3)\{a^3+3ab^2-(3a^2b+b^3)\}\)
=\((A+B)(A-B)\) \(A=a^3+3ab^2, B=3a^2b+b^3\) とおく。
=\(A^2-B^2\)
=\((a^3+3ab^2)^2-(3a^2b+b^3)^2\)
=\((a^6+6a^4b^2+9a^2b^4)-(9a^4b^2+6a^2b^4+b^6)\)
=\(a^6-3a^4b^2+3a^2b^4-b^6\)
オメガ「すごいよ! 難しい問題だけど正解している!」
シグマ「これで式の展開もばっちりかな」
オメガ「でもこの問題、もっと工夫できるんだよね。カギとなるのは指数法則だけど、覚えてる?」
シグマ「覚えてるよ」
指数法則
- \(a^m×a^n=a^{m+n}\)
- \((a^m)^n=a^{mn}\)
- \((ab)^n=a^nb^n\)
シグマ「でも、どれがカギになるんだろう」
オメガ「\((a+b)^3(a-b)^3\) の3乗が揃っているのがヒントかな」
シグマ「そうか。3つ目の法則を使うんだね」
シグマの解答(改良版)
\((a+b)^3(a-b)^3\)
=\(\{(a+b)(a-b)\}^3\)
=\((a^2-b^2)^3\)
=\((a^2)^3+3 \cdot (a^2)^2 \cdot (-b^2)+3 \cdot a^2 \cdot (-b^2)^2+(-b^2)^3\)
=\(a^6-3a^4b^2+3a^2b^4-b^6\)
オメガ「先に中身同士を展開して、その後に3乗するということだね」
式の展開のまとめ
- 式の展開は分配法則で計算できる
- 展開公式を用いて楽に展開できる問題あり
- \((a+b)^2=a^2+2ab+b^2\) (2乗の公式)
- \((a-b)^2=a^2-2ab+b^2\) (2乗の公式)
- \((a+b)(a-b)=a^2-b^2\) (和と積の公式)
- \((a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3\) (3乗の公式)
- \((a-b)^3=a^3-3a^2b+3ab^2-b^3\) (3乗の公式)
- \((a+b)(a^2-ab+b^2)=a^3+b^3\)
- \((a-b)(a^2+ab+b^2)=a^3-b^3\)
- \((a+b+c)^2=a^2+b^2+c^2+2ab+2bc+2ca\)
- 工夫を用いて楽に計算できる問題あり
- 共通部分を文字で置き換える、または、一つのブロックとして考える
- 展開の計算順を工夫する
オメガ「式の展開の話はここまでだよ。次回からは因数分解に突入だね」
シグマ「因数分解も頑張るぞー。では、またね」
最後に
今回は一工夫必要な式の展開の問題をたくさん解きました。たくさんと言っても、パターンは高々知れていますので、演習を重ねれば、慣れることができるでしょう。
では、次回もまた会えると嬉しいです!
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