数学問題 巡る和と積の方程式

はじめに

数学の「面白い問題、美しい問題、学びのある問題などなど」を紹介・解説します。

もし良ければ、考えてみてください!

問題

巡る和と積の方程式

次の方程式の解を求めなさい.
ただし, \(a,b,c\)はいずれも正の整数で, \(a \leq b \leq c\)とします.
(1) \(a+b=ab\)
(2) \(a+b+c=abc\)
(3) \(ab+bc+ca=abc\)
(4) \(a+b+c+ab+bc+ca=abc\)

知識レベル:高校数学(数IAレベル)

てくますクラブ 今月の問題(2023.06)に使用

解説

いわゆる方程式の整数解の問題です。

一つ一つ見ていきましょう。

(1) \(a+b=ab\)

方程式の整数解を求める問題のポイントは、解の候補を有限個にすることです。

そのための代表的な方法は次の2つです。

  1. ( ) × ( ) = 整数 の形を作る
    整数問題は積の形を作ることで上手く解ける問題が多いです。
    例えば、足して10になる2つの整数は無数に存在しますが、かけて10になる2つの整数は4種類しか存在しません。
    和の形ではなく、積の形にすることで、解の候補を有限個にするというわけです。
  2. 不等式で値の範囲を絞り込む
    何とかして、\(a\) が3以上になることはあり得ないことが証明できたならば、\(a\)が1の場合と2の場合のみ、調べれば良いことになります。このように、不等式で解の候補を有限個に絞りこむ手法です。

それぞれの方法で(1)を解いてみましょう。

解法1 ( ) × ( ) = 整数 の形を作る

解答

\(a+b=ab\)
\(ab-a-b=0\)
\(ab-a-b+1-1=0\)
\((a-1)(b-1)=1\)
\(a-1 \geq 0, b-1 \geq 0\) なので, \((a-1,b-1)=(1,1)\)
つまり, \((a,b)=(2,2)\)

補足

( ) × ( ) = 整数 の形を作るために、3行目で+1を生み出しています。
このようにすることで、\(ab-a-b+1\) の部分を因数分解できます。
-1は+1を生み出したことの辻褄合わせです。

4行目で無事、( ) × ( ) = 整数 の形を作れました。
かけて1になる2数は、(-1,-1)か(1,1)しかありませんので、後はそれらを調べれば終わりです。

無理やり因数分解して、積の形を作る部分は、慣れが必要かも知れません。

解法2 不等式で値の範囲を絞り込む

解答

\(a \leq b\) のため, \(a+b \leq b+b\)
\(a+b = ab\) であり, \(b+b = 2b\) なので,
\(ab \leq 2b\) と書き換えられる.
ここで, \(b\) は正の数より, 両辺を \(b\) で割って, \(a \leq 2\)
よって, \(a=1,2\)
\(a=1\) のとき, \(1+b = b\) より不適.
\(a=2\) のとき, \(2+b = 2b\) より \(b = 2\)
つまり, \((a,b)=(2,2)\)

補足

\(a+b \leq b+b\) の部分がポイントです。
\(a\) を \(b\) に書き換えることで、文字を減らしつつ、不等式の形に持ち込めています。

この部分が難しければ、
\(a+b = ab\) の式を、\(b = \displaystyle\frac{a}{a-1}\) にいったん変形し、
\(a \leq b\) のため, \(a \leq \displaystyle\frac{a}{a-1}\) としてもよいです。
この不等式からでも, \(a \leq 2\) を導くことができます。

\(a \leq 2\) さえ得られれば、こちらのもの。
後は \(a=1\) のときと \(a=2\) のときを調べれば終わりです。

なお、面倒臭くはありますが、
(\(a \geq 2\) かつ \(b \geq 3\)) または (\(a \geq 3\) かつ \(b \geq 2\)) ならば,
\(a+b \geq ab\) となってしまうことを数学的帰納法で示す方法もあるでしょう。

(2) \(a+b+c=abc\)

(2)以降の問題は、( ) × ( ) = 整数 の形を作る方針では厳しいです。
不等式で値の範囲を絞り込む方針でいきましょう。

解答

\(a \leq b \leq c\) のため, \(a+b+c \leq c+c+c\)
\(a+b+c = abc\) であり, \(c+c+c = 3c\) なので,
\(abc \leq 3c\) と書き換えられる.
ここで, \(c\) は正の数より, 両辺を \(c\) で割って, \(ab \leq 3\)
よって, \((a,b)=(1,1),(1,2),(1,3)\)
\((a,b)=(1,1)\) のとき, \(2+c = c\) より不適.
\((a,b)=(1,2)\) のとき, \(3+c = 2c\) より \(c = 3\)
\((a,b)=(1,3)\) のとき, \(4+c = 3c\) より \(c = 2\)
\(a \leq b \leq c\) なので, \((a,b,c)=(1,2,3)\)

(3) \(ab+bc+ca=abc\)

解答

\(a \leq b \leq c\) のため, \(ab+bc+ca \leq bc+bc+bc\)
\(ab+bc+ca = abc\) であり, \(bc+bc+bc = 3bc\) なので,
\(abc \leq 3bc\) と書き換えられる.
ここで, \(bc\) は正の数より, 両辺を \(bc\) で割って, \(a \leq 3\)
よって, \(a=1,2,3\)

1)\(a=1\) のとき
 \(b+bc+c = bc\)
 \(b+c = 0\)
 \(b,c\) は正の数より不適.

2)\(a=2\) のとき
 \(2b+bc+2c = 2bc\)
 \(bc-2b-2c = 0\)
 \((b-2)(c-2) = 4\)
 \(b-2 \geq -1, c-2 \geq -1, b-2 \leq c-2 \) なので, \((b-2,c-2)=(1,4), (2,2)\)
 つまり, \((b,c)=(3,6), (4,4)\)

3)\(a=3\) のとき
 \(3b+bc+3c = 3bc\)
 \(2bc-3b-3c = 0\)
 \((2b-3)(c-\displaystyle\frac{3}{2}) = \displaystyle\frac{9}{2}\)
 \((2b-3)(2c-3) = 9\)
 \(2b-3 \geq -1, 2c-3 \geq -1, 2b-3 \leq 2c-3\) なので, \((2b-3,2c-3)=(1,9), (3,3)\)
 つまり, \((b,c)=(2,6), (3,3)\)

\(a \leq b \leq c\) なので, 1)〜3)より, \((a,b,c)=(2,3,6), (2,4,4), (3,3,3)\)

補足

\(ab+bc+ca \leq c^2+c^2+c^2\) とすると、
\(abc \leq 3c^2\)
\(ab \leq 3c\)
となり、右辺に \(c\) が残ってしまうことに注意。

(4) \(a+b+c+ab+bc+ca=abc\)

\(a \leq b \leq c\) のため、
\(a+b+c+ab+bc+ca \leq 6bc\)
よって、 \(abc \leq 6bc\)
\(a \leq 6 \) とすることで、大変ですが解くことができます。

すべての \(a\) を調べなければならないのと、\(a \leq 6 \)の範囲のみ調べればよいのとでは、雲泥の差です。 候補を有限個に減らせている時点で勝ちと言ってよいでしょう。

しかし折角ですので、もっと \(a\) の範囲を減らそうと思います。

解答

\(a+b+c+ab+bc+ca=abc\) の両辺を \(abc\) で割る.

\(\displaystyle\frac{1}{bc}+\displaystyle\frac{1}{ca}+\displaystyle\frac{1}{ab} + \displaystyle\frac{1}{c}+\displaystyle\frac{1}{a}+\displaystyle\frac{1}{b}=1\)

\(a \leq b \leq c\) のため, \(\displaystyle\frac{1}{c}\leq\displaystyle\frac{1}{b}\leq\displaystyle\frac{1}{a}\)

よって, \(\displaystyle\frac{1}{bc}+\displaystyle\frac{1}{ca}+\displaystyle\frac{1}{ab} + \displaystyle\frac{1}{c}+\displaystyle\frac{1}{a}+\displaystyle\frac{1}{b} \leq \displaystyle\frac{3}{a^2} + \displaystyle\frac{3}{a}\)

つまり, \(1 \leq \displaystyle\frac{3}{a^2}+ \displaystyle\frac{3}{a}\)

変形して, \(a^2-3a-3 \leq 0\)

2次不等式を解いて, \(\displaystyle\frac{3-\sqrt{21}}{2} \leq a \leq \displaystyle\frac{3+\sqrt{21}}{2}\)

\(a\) は正の整数なので, \(a=1,2,3\)

これらの場合をそれぞれ調べることで, \((a,b,c)=(2,4,14)\)

補足

はじめに等式の両辺を \(abc\) で割ることで, 右辺の文字をなくしているのがポイントです。

最後に

今回は、方程式の整数解の問題を解説しました。

整数解問題で大切なことは、解の候補をいかにして有限個に減らすかです。

そのために今回学んだ手法は、次の2つでした。

  1. ( ) × ( ) = 整数 の形を作る
  2. 不等式で値の範囲を絞り込む

この2つの手法をマスターすれば、多くの整数解問題を解くことができるでしょう。

ちなみに高校数学のテキストでは、

(1) \(\displaystyle\frac{1}{a}+\displaystyle\frac{1}{b}=1\)

(3) \(\displaystyle\frac{1}{a}+\displaystyle\frac{1}{b}+\displaystyle\frac{1}{c}=1\)

の形で紹介されることの方が多いです。

では、また!